カイロプラクター列伝



初のオンライン小児ケア①(122号掲載)

山﨑 美佳DC

連載記事を書くのは一苦労、ブログは滞ったまま、動画配信なんてとんでもない、と外部発信を苦手とする私が、オンラインで小児ケアを提供するという自分でもびっくりの行動をしました。新型コロナ禍の「オンライン化」の流れがなければ実行に至らなかったでしょう。当院のクライアントさんから、遠方に住むご姉妹の生後1ヶ月の赤ちゃんについて、向き癖と片側のおっぱいがうまく飲めないことでご相談いただいたのが5月初旬。近くに小児カイロを託せる先生がいないか探したものの見つからず、外出自粛を求められている最中で遠出は難しい。そんな中、「オンラインで対応できそうな気がします」とお伝えしたことがきっかけで、全3回の「オンライン小児ケア」を実施し、なかなかの手応えで完了しました。

オンラインを始める前の準備として、①オンライン小児ケアの目的、流れ、料金、注意事項の文章化。②申込書や問診票のオンラインフォーム作成。ご記入いただいた内容をエクセルの数式を用いて自動でカルテにまとめられるテンプレート書類の作成。③第1回オンラインの時間を有効に使うために、お子さんについて気になっていることや、こちらが知りたいことを動画に撮ってLINEで送ってもらう。などを行いました。

ご相談内容は、向き癖やおっぱいトラブル以外にも①抱え上げた時や膝の上で反り返る、②ゲップを嫌がり激しく泣く、③うんちをする際に苦しそうで顔を真っ赤にして泣く、などでした。産院に相談しても「成長過程の一環で、よくあることなので心配ない」と言われ、やってあげられることがなくて困っているとのことでした。これは小児カイロの知識と経験が役立つ、やってあげられることは色々あります!とオンラインで声を大にして伝えたくなりました。

カイロプラクティックの目的は、身体と脳の繋がりを最適化すること。つまり、今身体が何をしたいのかを脳が正しく把握して、適切な司令を出せる状態にすることです。そのためには、カイロプラクターが自ら赤ちゃんの身体に触れてわずかなサブラクセーション(脊柱の機能上の問題)を見出し、神経伝達の滞りを解放する必要がある。だから、オンラインなんて無理!というのが当初の私の考えでした。しかし生後数カ月の赤ちゃんなら、カイロプラクターの「観察力」を最大限発揮して赤ちゃんが求めていることを見極め、言語化してお母さんにお伝えし、お母さんに実践してもらうことでかなりの問題が解決する。これも、ここ数年の小児カイロの臨床で実感してきたことです。

一方で、昨今はオンライン助産師さんの活動も始まりました。抱っこの仕方やおっぱいのあげ方は、助産師さんもアドバイスできます。小児カイロプラクターにオンライン活動の意義はあるのか?助産師さんと異なる役割を果たせるのか?という疑問も湧いてきました。

今回ご姉妹のオンラインケアを託して下さったクライアントさんは、「産後育児の悩みに関して、赤ちゃんを診てもらえるのは小児カイロの先生ならではです」と言ってくださいました。育児の仕方やおっぱいの出で悩むお母さんは多いですが、育て辛さは赤ちゃんに原因があることも少なくありません。その「赤ちゃん側の要因」をオンラインでどこまで解消できるかは、今後も試行錯誤が必要ですが、今回実際に悩みの症状が落ち着いたとご報告いただき、オンラインケアの可能性に目を開くことができました。

お母さんの笑顔は子どもの心の栄養です。一人でも多くのお母さんのお悩みを解消することは、子どものすこやかな成長発達を望む小児カイロプラクターの大切な役割です。オンラインケアの内容は、次号でご紹介したいと思います。


離乳食初期から卵黄 推奨(119号掲載)

山﨑 美佳DC

今年(2019年)3月9日の朝日新聞朝刊に掲載された「母乳への過度な期待 見直し」「アレルギー予防効果なし」「離乳食初期から卵黄 推奨」との大きな見出しについて、前回の連載では、アレルギー予防効果なし、との伝え方は誤りである、統計の誤解釈である、と述べました。

今回は、子育て方法に直接影響を与える「離乳食初期から卵黄 推奨」という改訂内容に注目したいと思います。新聞記事の元になった厚生労働省「授乳・離乳の支援ガイド」改定に関する研究会の第2回議事録によると、これまでは食物アレルギーの発症予防のため、離乳食の開始時期を「遅らせる」ことが強調されてきましたが、2015年以降の研究では、離乳食開始を生後5~6ヶ月よりさらに遅らせることはかえってアレルギー発症のリスクをあげることがわかってきました。(参照1)

イギリスで重症アトピー性皮膚炎や卵アレルギーを発症している生後4~10ヶ月の赤ちゃんを対象に実験を行った2015年の論文では、生後60ヶ月(5歳)まで食事からピーナッツを除去したグループは17.2%の子供がピーナッツアレルギーを発症したのに対し、少しずつピーナッツを摂取したグループは3.2%とアレルギー発症が抑えられました。同様の研究はその後も複数行われ、エビデンスで最も信頼度が高いとされるランダム化比較試験のメタ解析の結果から「ピーナッツの早期摂取は乳児のピーナッツアレルギー発症予防に効果あり」と報告されています。

日本では、卵アレルギーに関して研究が行われ、アトピー性皮膚炎と診断された生後6ヶ月児を対象にした2017年の論文では、生後12ヶ月(1歳)まで離乳食から卵を除去したグループは、卵アレルギー発症率が38%だったのに対し、加熱した全卵粉末を生後6ヶ月から毎日少量ずつ食べさせたグループでは発症が8%、と統計学的に有意に卵アレルギーの発症が抑制されました。この研究成果を含め、複数のランダム化比較試験のメタ解析により、「乳児期早期の卵摂取は卵アレルギー発症予防に効果あり」と結論されています。

これまでは生後4~5ヶ月の重症アトピー性皮膚炎の子供が病院に行くと、医師から「離乳食で卵を食べさせるのは1歳くらいまで待ってください」と指示されることが多かったようですが(参照1、第2回議事録)、ガイドライン改定によって指導が大きく変わることになります。

2007年版ガイドラインの「離乳食の進め方の目安」という表には、生後5~6ヶ月頃の離乳食初期に「慣れてきたら、つぶした豆腐・白身魚などを試してみる」と記載されていますが、今回の改訂で「つぶした豆腐・白身魚・固ゆでした卵黄等を試してみる」と変更されました。議事録では最初から全卵で良いとしていますが、最終的な表記が「卵黄」になった裏事情は興味深いところです。

議事録からはガイドラインの影響力の大きさがよくわかります。国がガイドラインで母乳育児を推奨した結果、産後1年未満で働いている女性の完全母乳育児率は、2005年から2015年の10年間で27%から49%に増加しました。(参照1、第3回資料)離乳食の開始時期のピークは1985年の調査では生後4ヶ月でしたが、ガイドライン改定に伴い、2005年には生後5ヶ月、2015年には生後6ヶ月、と遅くなっています。(参照1、第2回議事録)生後4ヶ月までに離乳食を開始すると糖尿病や肥満、湿疹、セリアック病などの慢性疾患のリスクが高まるといった知見や、食物アレルギーの発症を心配して離乳食を遅らせる指導の影響で、離乳食開始は年々遅くなってきましたが、今回の改定で生後6ヶ月よりもさらに遅くなる傾向には歯止めがかかるでしょう。

ガイドライン次第で大きく変わる「常識」ですが、あくまで統計結果を基にした目安です。実際にはお子さんの発達に応じた対応をすべきです。先日参加した国際小児カイロプラクティック協会(ICPA)のセミナーでは、離乳食の開始時期を見分ける方法が紹介されました。

①体重が出生時の2倍になる、②首が座って頭の位置をコントロールできるようになる、③軽いサポートがあれば座れるようになる(ベビーソファに固定しないと座れないのでは時期尚早)、④満腹になると食べものをあげても顔をそむけたり口を閉じたりと意思表示できるようになっている、という4つのサインを満たしたら、離乳食を開始して良いとのことです。

やはり大事なのは目の前のお子さんが示すサインです。離乳食の時期なのに食べものをあげるといやがる、とおっしゃるお母さんには、「無理にあげずに、また機会をみてあげてください。身体が離乳食を必要とする時期になったら、自然に食べるようになります」とお伝えしています。

参照1

厚生労働省「授乳・離乳の支援ガイド」改定に関する研究会


「授乳・離乳の支援ガイド」の裏読み(118号掲載)

山﨑 美佳DC

今年(2019年)3月9日の朝日新聞朝刊に「母乳への過度な期待 見直し」「母乳によるアレルギー予防効果なし」「離乳食初期から卵黄 推奨」と大きくうたわれているのに目が留まりました。

これまで世の中が母乳大切、母乳大切、と言っていたのに、今度は別に母乳じゃなくて良いよ、というような見出し。「母乳を後押ししすぎて不安をかかえた母親が増えたから今度は母親に安心感を与えよう」という国の指針の変更。なんだか国に踊らされているようで、実際はどういうことなのだろうと検索したところ、記事の元になった厚生労働省の《「授乳・離乳の支援ガイド」改定に関する研究会》のウェブサイトにたどり着きました。(参照1)

感心したのは、研究会の議事録がきちんと残されていることです。第1回、第2回、という話し合いの過程を読むと、世界の研究動向や関わる専門家の皆さんのご意見、そしてどのような意図でこの結論に至ったかを垣間見ることができます。

「予防効果なし」という新聞見出しを目にして感じていた違和感が、第1回議事録を読んで解消しました。議事録には「母乳栄養が食物アレルギーを減らすという明確なエビデンスはない」と記されていたのです(第1回研究会資料4・p5)。皆さんは2つの言い方の何が違うの?と思われるかもしれません。しかし、元研究者の私にとっては大いに突っ込みたくなる違いなのです。

偶然にも支援ガイド発行と同月の3月21日に、世界的に有名な英科学誌であるNatureにこの言葉遣いの問題が取り上げられていました(参照2、日本語解説は参照3)。統計的に有意差なし、という研究成果を「効果なし」と解釈するのは統計の誤用である、という声明です。さらに、同じ傾向を示している実験が、ある論文では有意差ありとされ、別の論文では有意差なしとなるのはおかしなことではなく、統計の性質上、参照するデータのばらつきによって充分あり得ることだとも紹介しています。今回の例で言えば、完全母乳で育てた子供と育児ミルク併用で育てた子供のアレルギー発症率に有意差は見いだせなかった、という研究成果を「母乳にアレルギー予防効果なし」と発表するのは誤った解釈であり、2007年に出された授乳・離乳の支援ガイドで「母乳が乳幼児期のアレルギー疾患予防に一定の効果があるとの研究結果を紹介していた」(同新聞記事より)ことは、今回の発表で覆されたわけではないのです。

Nature誌の声明によれば、ある5つの学術誌に掲載された791の文献のうち51%が「有意差なし」を「効果なし」と誤って解釈していた、とのこと。科学者ですら混乱しているのですから、私たち一般人が混乱するなというのは無理な話です。しかし、世の中でもてはやされる「エビデンス」にはこのような誤りが氾濫していることを私たちも少しは知っておいたほうが良いのです。

 例えば、カイロプラクティックの有効性はエビデンスに乏しいと言われても、目の前で毎日のように実感している大きな効果を過小評価する必要はありません。「手技」という世界は、どのテクニックを使うか、その習熟度、施術者の手の温度、柔らかさ、感覚の鋭敏さ、施術時間、頻度、オフィス環境、患者教育、施術者の心のあり方など、効果に影響を与える因子が多く、かつ「痛み」「疲れ」などの客観的評価が難しい事柄を扱っているため、「薬の効能」の研究に比べて統計結果にばらつきが出るのは当然です。調査対象を広げるほどばらつきが大きくなり、「有意差」は出にくくなります。臨床で効果があった、という個々のケーススタディはコントロール(対照)が存在しないので統計的エビデンスには使えません。カイロプラクティック業界としてはエビデンスを得る努力をするのは大切なことです。しかし臨床にいる私たちにとっては、統計的に有意かは参考でしかなく、目の前の一人一人に向きあって、その人にとって有意なサービスを提供することが最優先です。エビデンスの議論に一喜一憂することなく、エビデンスを強く主張する人がいたら、その主張の裏に統計の誤った解釈がないか探るくらいの余裕を持ちたいと思います。

 新聞見出しに感じた違和感から話が脱線しましたが、支援ガイド改定で今後の子育て指導に大いに影響を与えるのは、母乳のアレルギー予防効果あるなしではなく、もう一つの見出し「離乳食初期から卵黄 推奨」ではないでしょうか。

新たに支援ガイドに追加された「アレルギーの原因となりやすい食べものは、離乳食初期から少しずつ食べさせるとアレルギー発症率が下がる可能性がある」という報告については、また次回。待ちきれない方はぜひ「議事録」をお読みください。

 最後に、「予防効果なし」という見出しは新聞社がインパクトのために誤用したのではなく、授乳・離乳の支援ガイド最終版(2019年改訂版 p19)に「システマティックレビューでは予防効果はないと結論」と記載していることを付記します。根拠になった文献と思われる(明記なし)コクランレビュー「完全母乳哺育の至適期間」原文では「有意差なし」と報告してあり(参照4)、支援ガイド作成時の誤解釈と考えられます。

参照1)

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-kodomo_129050_00001.html

参照2)

Amrhein, V., Greenland, S., McShane, B. Nature 567:305-307, 2019.

参照3)

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1903/26/news112.html

参照4)

https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD003517.pub2/full


人と人が向きあうとき(116号掲載)

山﨑 美佳DC

あなたは初めて会う人と、どのような心で向きあいますか?

2018年10月ブラジル・ウバトゥバにて、ルー・コルレトDCが主催する8日間の「ミッション・オブ・ライト」に参加しました。

奉仕活動が盛んな米国では、カイロプラクティックドクターや学生たちがポータブルテーブルを片手に旅し、カイロプラクティックの恩恵を受けられない人々に路上や教会などでアジャストメントを提供するボランティア活動「ミッショントリップ」を世界各地で行っています。

問診が鍵をにぎるオフィスでの臨床とは異なり、ミッショントリップはほぼ問診なしで1日何十人、何百人もの人々をただひたすらアジャストメントします。初めて会う人々に、カイロ哲学のとおり純粋にその人の内にある「生きる力」を最大限ひきだすためにアジャストメントをする、カイロプラクターの原点に立ち返る宝物のような時間です。

私はカイロプラクティック大学の4年目に、ハイチとドミニカ共和国で2回、ミッショントリップに参加しました。「将来、小児カイロをやりたい!」と思い、選択授業を取ったり、国際小児カイロプラクティック協会(ICPA)のセミナーを受講していましたが、講義でも大学のクリニックでも実際に小児を診る機会はありませんでした。

しかしハイチやドミニカでは、子どもたちが次々と恥ずかしがることも怖がることもなくカイロテーブルに飛びのってきます。無邪気な感受性豊かな子どもたちと目と目を合わせながらアジャストメントしてハイタッチ、最後にニコッと笑ってくれる。言葉はいりません。なぜかいつもたくさんの子どもたちに囲まれて、「ハルカの所は毎回幼稚園みたいだね」と引率のドクターに言われていました。もちろん、中には妊婦さんも障害をもった方もいらっしゃいました。杖をついてやっとの思いでテーブルに寝たおじいちゃんが、私のアジャストメントを受けた後、杖を放り投げてスタスタ歩き去った「奇跡」は、カイロプラクティックの力を再認識し、学生時代の私の大きな自信となりました。

日本で開業後、2017年には日本の先生方が企画するカンボジア・ミッショントリップに参加し、今回のブラジルは私にとって4回目。主催者ルーの魅力を大陰幸生DC(カフェ・オブ・ライフ・東京)から幾度となく聞いていた私には、念願のミッショントリップ参加となりました。

 8日間のブラジル滞在のうち、アジャストメントを行ったのは月曜から金曜までの5日間。アジャストメント2日目の朝、ルーは手の中の紙切れを1枚ずつ私たちに選ばせ、その日1日、紙に書かれた言葉を大切にアジャストするようにと言いました。

 私が手に取った言葉は「コネクション」。言葉も文化も異なる目の前の人に心を開き、受け入れ、繋がり、共鳴しながらアジャストメントする。頭で考えずにすっとコネクトできるようになるにはまだまだですが、コネクトできた瞬間は、私も相手も自然と笑みがこぼれるような、何とも言えない幸せに包まれました。

 3日目に引いた言葉は「プレイ・フルネス」。「今」を意識し集中し、アジャストメントの瞬間に自分のすべてを出すよう努めました。

 4日目は「パッション」。

あっ、そうか、真剣でまっすぐなアジャストメントだけでは片手落ちでした。パッションを持ってアジャストメントするからこそ、そのエネルギーは相手に深く伝わり、身体の内から湧き起こるような興奮や人生を変えるような「光」が生まれます。この日私がアジャストメントしたのは約130名でしたが、疲労感よりも心地よい充実感や楽しさに満たされました。

 最終日の5日目は与えられる言葉ではなく、自分で考えなさいとのこと。私がかかげた言葉は「フル・ラブ」。これまでの3つの言葉に心からの愛をのせてアジャストメントを届けました。今ここにいられることに感謝の気持ちでいっぱいでした。

 海辺にほど近い場所で波の音を聞き、陽の光や風、時には激しい雨音を全身で感じながら1人1人に向きあった5日間。突如現れた私たちのアジャストメントを受けに興味津々で来てくれたたくさんの人々。最年少は生後14日の赤ちゃん。子供たちも、妊婦さんも、病院の診断書を持った高齢の方もいらっしゃいました。

 日本で日々の臨床に戻っても1人1人に向きあう想いは同じ。「4つの言葉」を胸に刻み心新たにアジャストメントを届ける毎日です。

 私にとってミッショントリップは、心と身体を総動員して人に向きあう術を磨く場であり、カイロプラクティックの威力と可能性を再確認し、カイロプラクターであることの幸せを噛みしめる時間です。あなたもオフィスから飛び出して、カイロテーブル片手にミッショントリップに参加してみませんか?


細胞の世界から人間探求の道へ(115号掲載)

山﨑 美佳DC

今号から連載を担当する山﨑美佳(はるか)と申します。2016年1月に東京都港区三田に「きっず&ふぁみりーカイロプラクティック三田」を開院し、あっというまに3年目となりました。

唐突ですが、手近にあるスマホやパソコンで「カルシウムイメージング」と検索してみてください。光る細胞の写真や動画を見ることができましたか?

私は2011年6月までカルシウムイメージング研究の一翼を担っていました。大学院で農学博士号を取得して研究職に就き、細胞が神経伝達や受精・細胞死・外分泌などの細胞機能を発揮するために、いかに細胞内カルシウムイオン濃度を制御しているか、その仕組みを日々解析していました。

重箱の隅をつつくような研究が続き、研究者としての将来に疑問が膨らんでいた最中、私はマラソン大会に向けた練習で脚の強い痛みを感じて歩けなくなり、ネット検索して整体に駆け込みました。

これまで大きな病気をすることもなく、病院も薬も整体などの治療院も疎遠だった私にとって、初めて手技療法で痛みが消える体験をして、人間の身体って面白い!もっと人間のことを知りたい、としばらく忘れていた好奇心が再び沸き上がってくるのを感じました。

研究は1番になることを求められる世界ですが、私は自分の「好奇心」をただ探求したい。人の身体の不思議を探求できて、さらに目の前の人に喜んでもらえるなんて素敵な職業だな、と手技療法の道を調べるうち、「イネイトインテリジェンス(生きものが生まれながらに持っている叡智)」というカイロプラクティックの考え方(哲学)に出逢いました。

私は「カルシウムイメージング」の世界で、細胞が巧妙な仕組みで互いにコミュニケーションをとりながら環境に適応して生き抜くさまに、人智を越えた美しさを感じていました。人間の頭で思いつく以上の強さや適応力があることを痛感していたのです。そんな私にとって「イネイトインテリジェンス」はまさにその通り!と感じる科学的な概念で、生まれ持った力を信じる「カイロプラクティック」という手技療法に強い好奇心を感じました。

第2の職を選ぶなら後悔しないような環境で学ぼう、と調べを進めるうち、学術研究がしっかり行われ、教育体系が整い、医療資格として地位が確立している米国でカイロプラクティックを学ぶ決心をしました。

分子生物学の研究者からカイロプラクターの道に進んだと自己紹介すると、よく思い切りましたね、とびっくりされるのですが、私の中では探求する対象が細胞から人間まるごとになっただけであり、好奇心のおもむくまま進んできたら、こんな不思議な道のりになっていました。

35歳で研究職を辞して渡米し、4年間のドクターオブカイロプラクティック(DC)課程で学びながら、週末には学校の試験勉強の合間をぬって国際小児カイロプラクティック協会(ICPA)による「妊産婦と小児のカイロプラクティック」について専門教育を受けました。

試験に追われ徹夜ばかりの学業にプラスして、土日にセミナーを受け、計14回、200時間のプログラムを受講したその動機は、やはり女性であるからには、女性の一生に不可欠な妊娠出産や生まれてきた子どもの健康について、積極的にサポートできる施術家でありたい、という想いです。 

現在の院名が「きっず」で始まるのは、小児カイロプラクティックがまだ浸透していない日本で「子どもを診ます」と宣言するためです。とはいえ、当院は小児中心ではなく、赤ちゃんも大人も、女性も男性も来院されます。特に、私は女性を応援したい!という想いがあります。女性が生き生きとしていれば、子ども達をはじめとして家族も地域も元気になります。

様々な悩みを持った女性達がふらっと立ち寄れるオフィス、子どもやパートナーやご両親を連れて一緒にカイロプラクティックを受けて、みんなで笑顔になって帰ることができるオフィス、そんな場を目指して日々学びを重ねています。

この連載では、私がオフィスで体験したことや感じたこと、カイロプラクティックへの想いなどを発信していきます。


妊活~子育てカイロプラクティック体験記(113号掲載)

山地 梨映子DC・CACCP

私のオフィスには多くの女性が来られます。その中に、妊活中や妊娠中という方もたくさんいます。その中で印象的だった患者さんのお話をお伝えしたいと思います。

Kさん 29歳。主訴は頭痛で来院されました。(ほぼ毎日頭痛薬を服用するほど)問診をしているうちに、妊娠を希望しているということ。しかし、中々授からず、一度流産の経験があるためとても神経質になっていました。仕事は好きで充実しているが、とても忙しく、家事との両立にもストレスを感じていました。

初見では、仙骨に大きくサブラクゼーションがあり、聞いてみると、高校生の頃、座ろうとした時にいたずらで椅子を引かれ、そのまましりもちをついて強打し、泣き出すほど痛かったことがあるということでした。仙骨のサブラクゼーションによって脳脊髄液の流れが悪くなり頭痛が起きていること、子宮や卵巣への神経の働きに不具合が生じている可能性があることを説明し、治療を開始しました。治療開始から3回目には頭痛薬を服用しなくてよくなり、5回目には頭痛がほぼ解消され、妊活に集中できると喜んでいました。(ほぼ毎日の頭痛薬の服用によって身体が酸性化し、細胞に異常をきたし、子宮内環境も悪化させていたと思われます。1度の流産はこのためではなかったかと考えられます。)

治療を進める中で話を聞いていると、家でゆっくりと夫を支えたいと思う一方、仕事がかなり大変で帰宅も遅く、家事がおろそかになり、ストレスを感じているということでした。そこで私は「仕事を少し減らすか、やめるという選択肢はないのか?」とアドバイスしたところ、夫と相談し、2か月後仕事をやめることにされました。初診から6か月、私のオフィスで治療を受けながら身体作りを続け、なんと仕事をやめたその月に妊娠が分かり、台本通りと言いたくなるような結果をもたらすことができました。妊娠中も産後も続けてアジャストを受けていたおかげで、今もとても元気に子育てをされています。もちろん産まれた赤ちゃんもアジャストを受けています。

妊活において、”ストレス”は一番の邪魔者だと考えられます。(ホルモンバランスを崩す原因になります)このケースでは、仕事がストレスではなく、仕事をしていることによって家事ができないというストレスでした。それを取り除くことによって、うまく心身のバランスを保つことができ、妊娠されたのだと思います。カイロプラクターとして、大切なことは、ただただアジャストをするということではなく、様々な面においてアドバイスすることが大切だと思います。食生活もそうですし、時に患者さんに寄り添い、私生活へのアドバイスやメンタルサポートも必要なことだと思います。そして、本来カイロプラクターが提供すべき「wellness」とは何かをしっかりと患者さんに伝え、本当の意味での健康を共に目指すことが必要です。


産後におけるカイロプラクティックの役割(112号掲載)

山地 梨映子DC・CACCP

産後において、一般によく言われるのは「骨盤矯正」ですが、CACCPとして指導するのは、①へその緒について、②母乳について、③赤ちゃんのケアについてです。

①は、産後すぐにへその緒を切るのは通常になっていますが、私は最低でも1分、できれば脈がなくなるまで切らないでほしいと言っております。本来へその緒はお母さんと赤ちゃんを繋いでいる血管です。出産が終わった後も脈を打ち、最後に赤ちゃんに必要な細胞や栄養分を与えています。それを切ってしまうのはいかがでしょうか。最後に必要な細胞と栄養をきっちり与えられたかどうかによって赤ちゃんの体調もよりよくなり、お母さんの身体の回復、特にホルモンバランスの回復はより早くなると思っています。

②は、母乳を与えれば与えるほど子宮の収縮を促します。大きくなった子宮を通常の大きさに収縮させることで、広がった骨盤も同時に元通りに戻ってきます。(もちろんこの時期にカイロプラクターとしてのアジャストメントは必要です)それから、母乳を与えることによる乳首への刺激、そして触れあう(アタッチメント)ことで視床下部への刺激があり、女性のホルモンは良いバランスを保っていくことができます。加えて、母乳を作るプロラクチンは子育てにおけるネグレクトを防ぐ効果があると言われています。プロラクチンはいわゆる母性を促すホルモンなのですから、母乳をしっかり与えましょう

③は最も大切です。産まれてきた赤ちゃんは非常にストレスと緊張を感じています。そんな赤ちゃんを労わらずに、お母さんばかりをケアするのは順番が違うと思います。赤ちゃんのストレスと緊張を取り除くために小児カイロの原点はあると思っています。そのストレスと緊張を取ることで、まず向き癖や夜泣きがなくなり、おっぱいもしっかり飲んでくれます。それは、要するに『子育てを楽にする=お母さんが楽できる』ということになるのです。お母さんが穏やかに楽な子育てを楽しむことができれば、睡眠もしっかり取ることができ、体調の回復も早まると思います。

「骨盤矯正」だけに目を向けず、産後のハッピーライフのために少し目線を変えてみてはいかがでしょうか?

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