ドクター・オブ・オステオパシック・メディスン

森田 博也DO、星野 優子、他



オステオパシーって何?(121号掲載)

NPO法人アトラス・オステオパシー学院 村井 香織

オステオパシーに多少なりとも触れたことのある先生方にお尋ねいたします。「オステオパシーを簡潔に説明できますか?」先生ご自身も、お伝えする相手にも腑に落ちるよう、尚且つ過不足なく、です。これは決して挑戦的な問いではありません。オステオパシーを学び、オステオパシーを主軸とする施術者であろうとするほど、悩まされる課題であり、それは先人たちも同じだったようです。

私がアトラス・オステオパシー学院で数年間担当させていただいた講義「オステオパシーの哲学と理論」で使用している文献は、大半は解釈の余地のない解剖学ベースの理論で成り立っています。ですがどの文献も共通して合間に著者自身や、A.T.スティルMDの独特の言葉が大切そうに綴られており、様々な角度や表現でオステオパシーの本質を教えようとしてくれます。学生が卒業する頃にはオステオパシー独特の思考回路はきちんと備わっています。内心、文献を読むことで刷り込み教育されているからではないかと疑いたくなるほどです。このように折に触れて語る形式をとっているということは、やはり「オステオパシーとは?」と、伝えることの難しさを彼らも実感していたのでしょう。

しかし反面、興味深いのはどの著者もこういった文言から「身体をとても信用している。」という事が明確に伺えるところです。

代表格として「それを見つけたら、それを治療し、そして放っておきなさい。」というA.T.スティルMDの言葉があります。見た目にわからないほどの関節や筋肉の機能変化を見つけて修正したら(=SDを治療したら)、あとは身体の方でみんな出来るから余計なことをするな、と語っているのです。

深刻な疾患や怪我などの例外はもちろんあります。しかしほとんどのケースでオステオパシーのアプローチの対象は症状のある部位でも患部でもありません。実際、森田博也DOや星野優子MDが、この連載で前述したような疾患に対するアプローチは、施術で疾患を治癒させるという手法ではありません。治癒する力は身体自体が持っているので、通常どおりにそれが働くようにする、ということなのです。

身体によって行われる無意識下の調整は、内部環境についてだけでなく体性系にも言えることです。前回、代償姿勢について少し触れましたが、現存するSDを解消した後は、身体が新しいバランスに対応していることが実際の姿勢評価で確認できます。

このように、一つテーマがあれば淀みなく語れるほど揺るぎないコンセプトを持っているのに「オステオパシー」となると説明が非常に難しいのがもどかしいところです。オステオパス=「身体を信用する人たち」と言われるように、身体について科学的根拠をベースにした思考を共有するという点で形を持つ方法もありかもしれませんね。


良い姿勢の思考 ~術者とクライアント~(120号掲載)

NPO法人アトラス・オステオパシー学院 村井 香織

腰痛、肩こりなどで来院されるクライアントからよく「良い姿勢をしているのが辛い」というご相談を頂戴します。健康と姿勢に深い関わりがあることや、体性系の不快感の中には姿勢に関連するものが多いことはメディアでも取り上げられており、一般の方にもかなり浸透しているようです。見聞きしたことをもとに試行錯誤される方もおられますが、意識しないとできないような姿勢を続けていると当然ながら疲労します。形だけ真似ていても様々な筋肉が効率的に協調した姿勢ではない場合、さらに疲労は増すでしょう。特に体性系の不快感を主訴とする場合、パーフェクトな姿勢に固執せず、疲労を感じる前に立位になり自然な姿勢を作りやすくし、少し体を動かすようアドバイスしておくと症状がぶり返しづらいようです。

姿勢分析はオステオパシー施術でも行いますが、クライアントの作る姿勢の良し悪しを論じるためにしているわけではありません。身体は関節SDなど、ある関節の機能が働きを満たさなくなった場合、その構造が関わる運動を全身の関節や筋肉によって代償します。振る舞いを変えたため変化した重心の上で、違和感なく活動ができるよう全身を使いバランスを調整していきます。この変化により現れた姿勢を代償姿勢といい、正常な体性系の反応としてオステオパスはとらえます。こうしたオステオパシーの観点からも静止時の姿勢を思考と力で修正するのは意味を成さないように思います。

代償は正常な反応であるものの通常要求されない機能や負荷を関節や筋肉に強いますので、長引けば支障をきたします。オステオパシーでは原因が不明瞭な肩こりや腰痛の多くがこのケースに含まれると考え、なるべく代償の少ない状態にすることを目標に施術をします。全身の体性系SDへのアプローチは繊細なベクトル操作を用いるため、術者によって受動的に誘導される必要があります。一方で能動運動の再教育のため、運動指導やクライアントの認識を変えていく必要性も感じます。日常動作の殆どは人が後天的に獲得したもので、全身の筋や関節が理想的に統合されたものとは限りません。関節や体幹部が安定しないまま日常を送ることは代償姿勢を維持していることと同様といえます。施術と運動そしてクライアントの日常動作が同一の領域であるという認識をクライアントとの共通項とする必要があると感じています。


第26回:オステオパシーを学ぶその先に(119号掲載)

毎年、お盆休み前後になると本学院を卒業した学生たちの近況が集まってくるのですが、私を含めオステオパシーを学んだ者は、どうも自由に羽ばたいていく傾向があるようです。卒業後の進路は施術家を筆頭に、医療資格を持っている卒業生などは仕事におけるスキルアップを図ります。しかし過去にはアロマや東洋医学をさらに勉強したり、スポーツトレーナー、クルーズ客船でトリートメント、動物病院に勤務という方もおられました。筆者自身も、オステオパシーの施術と講義を受け持ちつつピラティストレーナーのライセンスを取得いたしました。一見するとオステオパスとして脱線しているようにも思えますが、オステオパシーの哲学といわれる身体に対する捉え方を思えば、いかにもオステオパスらしいと私は思っています。

身体は一つのユニット。身体の一部分に囚われず、その人の今持っている構造のすべてが可能な限り効率的に連携することを目指すこと。その先にあるものが、真に健やかな状態の身体です、と謳っているオステオパシー。その学校教育も入学から卒業で一つのユニット「オステオパシー」になっていきます。

始まりは点。身体についての名称、単語や構造物を一つ一つ知るところから。徐々にバラバラと教わった構造物同士を解剖学的にも生理学的にも連携という線で繋げることをいくつかの例として教わり、それを積み重ねていきます。その思考回路がさらに個体差に対応し始めていくと、ある日その線の集合が全身の立体に見え始め「ユニット」を実感します。「ホリスティック」という表現は一般にボンヤリとした印象として扱われそうですが、オステオパシーの立体を作る線は揺るぎのない点から形成されたものとして学生のイメージに残ります。ここまで段階を経ると、難しいと思っていた施術の組み立てが楽しくなり、自由に感じてきます。学びの積み重ねに裏打ちされたアプローチのアイデアが生まれ、他のやり方を参考にトライ&エラーを繰り返し、施術の幅が広がります。

もちろん憶測ですが、最初は「オステオパシー=クライアントを施術ベッドに横たえて行う手技療法」と想像し入学した学生は、オステオパシーにおける手技とは大局的に身体のことに適用できる概念を学ぶことだと気づき、他の仕事に応用をしていこうと試みるのではないでしょうか。

「オステオパシー」とは手技の1つではなく身体に対する捉え方を体系化して学ぶ学問です。施術という小さな枠組みにとどまることなく、私たちは様々な職種や施術業界以外の方々に「オステオパシー」の種を運んでまいりたいと思います。


第25回:天気痛(118号掲載)

先生方も、天候の崩れによって症状が強くなる慢性疼痛のクライアントさんを、よく経験されるのではないかと思います。「気象病」、「天気痛」などと呼ばれる疾患には、めまい、頭痛、肩こり、腰痛、関節リウマチ、変形性関節症、三叉神経痛などが挙げられ、関節リウマチ患者の疾患活動性が、気圧低下時に上昇するという疫学的な研究がされています。

天気痛のある人たちを実際に気圧変化や温度変化に暴露し、天気痛が再現されるのを調べた報告もあります。また、天候の変化に影響されるのは人間に限ったことではなく、マウスの実験でも同様の結果が認められます。とくに、悪天候時には身を隠さないといけない小動物や鳥類では、気圧変化をよく感知するようです。

天気痛の機序には、気圧や温度の変化に対する自律神経の変動が挙げられており、気圧センサーは内耳の三半規管に存在している可能性があるとされています。気圧低下による内耳からの情報が脳幹の前庭神経核に入力され、自律神経中枢や内分泌系に影響しているのではないかと考えられています。

漢方医学では、気血水の乱れや冷えが慢性疼痛と関連するといわれていますが、特に天気痛やめまいと、水滞(水が滞り、体液が偏在している状態で、下腿や舌の浮腫が見られる)は関連しているとされています。天候に左右される神経痛やめまいには、五苓散などの水をさばく漢方が有効な場合があります。めまいは内耳のリンパと関連するとされていますので、気圧変化により内リンパの変化が生じているのかもしれませんね。

少しオステオパシーの話もしますと、オステオパシーの教育を受けている時に、特に「天気痛」対策について習った覚えはありません。ですから、これはただの仮説ですが、前述のような話を考慮すると交感神経を抑制するリブレイジングなどの手技や、隔膜や頭蓋、静脈洞などへのアプローチによるリンパ流の改善などが「気象病」「天気痛」に有効な可能性もあると思われます。

ところで、一般に「愛情ホルモン」とも呼ばれるオキシトシンは、乳汁分泌、子宮収縮の他、社会性の育成、食欲抑制、抗炎症、鎮痛の作用を持つとされており、近年、慢性疼痛への効果も研究されています。また、不眠や神経症などに用いられる加味帰脾湯という漢方は、オキシトシンの分泌を促すと報告されています。社会性や絆形成と関係するホルモンが、精神状態や疼痛と関連するというのは、なんとなく理解できますね。

オステオパシーの哲学には、人はbody、mind、spiritの三位一体であることや、医療者の仕事は病気を探すことではなく健康を見出すことであるということが含まれています。治る力は全て、すでにその人の中に存在しているということです。オステオパシーに限らず、様々な分野の知恵を学びながら、それを見出していきたいと考えています。


第24回:風邪・インフルエンザ②(117号掲載)

今年もインフルエンザは猛威をふるい、あちらこちらの学校が学級閉鎖を余儀なくされたそうです。今回はインフルエンザや風邪の治療方法などを中心に話を続けていこうと思います。

風邪をひくと咳、くしゃみ、鼻水、咽頭痛、発熱などが症状として現れますが、一般的にどれか一つの症状が強くあらわれてきます。医療機関で受診をすると、咳・くしゃみ―咳止め、鼻水―鼻水止め、咽頭痛―痛み止め、発熱―解熱剤などの薬が処方されますが、これらの薬効は風邪の諸症状を抑えるだけで、風邪本来を治すものではありません。

元々現代の西洋医学はAllopathic医学であり、対症医学としての治療です。例えば鼻水や咳とは気道に侵入した病原菌やウイルスを体外に出す現象(症状)ですが、薬はその現象(症状)を抑えることが役割になります。発熱についても38.5℃程度の熱が出るのは、平熱時に比べ白血球の免疫作用が効率よく働くためです。それを「しんどいから」と安易に解熱剤を使い、熱を下げるのもどうかと思います。41℃までの発熱は人体において大丈夫という研究報告もあります。抗生物質も黄色ブドウ球菌のような細菌には効果があってもウイルスには効きません。

Allopathic医学である現代西洋医学に対して,全体医学holistic医学で患者の治療に当たるOsteopathic Medicineではどうするのか。まず、リンパの流れを良くして免疫の機能を高めます。リンパ管は下水溝のようなもので、各細胞で排出された老廃物を集めて捨てる役割を持ちますが、薄い単層のカベで覆われているため流れが悪くうっ滞が起き易い箇所でもあります。

皮膚の表層を流れるリンパ管に対しては、軽擦法(エフラージ)を顔面頭部、四肢に施し、胸郭入口を揃えて、横隔膜をドーム化して、肋骨挙上を施します。それにより、体幹部(主に呼吸筋)を緩め、咳などで呼気に傾いた肋骨をフリーにして、傍脊柱筋の位置にある交感神経連鎖に働きかけ、昂ったインパルスを調整します。もちろん、オステオパシーでは、手技による治療を対症療法に加えて施すものであり、患者さんの痛みや辛さを少しでも早く軽快に導くことを目的とするものです。

現代西洋医学に対抗するのではなく、補うように全体医学が存在する。主体はあくまでも患者自身であることが、医療に携わる者の考えとして何よりも不可欠だということを忘れてはなりません。


第23回:風邪VSインフルエンザ(116号掲載)

執筆の今、インフルエンザの予防接種の季節になってきました。この季節性の疾患は、毎年11月頃から患者が増え始め、1~2月頃をピークにして、3月頃に終焉を迎えます。一方、一般的な風邪は平均的には年に3~6回罹患するといわれていて、ほとんどの場合自然緩解をします。このことはインフルエンザウイルスが、湿度と温度の低い冬ほど活動性が高くなるという研究の報告と一致します。

一般に我々が風邪といっているのは風邪症候群の中の普通感冒を指すものです。風邪症候群はその臨床症状や病変部位、原因となるウイルスから6つの病型があり、普通感冒もインフルエンザもその病型の1つに含まれています。インフルエンザウイルスはA型、B型、C型の3種類がありますが、ヒトに感染・流行するのはA型とB型です。A型は遺伝子変異が起こりやすく、ウイルスが少しずつ変異を繰り返しながら鳥獣を介し、人間に感染するようになります。

一方、普通感冒もライノウイルスやコロナウイルスといったウイルスが原因で感染・発症し、よく似た症状~典型的に咳、鼻水、咽頭痛~といった多症状を呈します。安静にして、水分補給を行っていれば、通常は3~5日で自然緩解して、重篤な病気になることは少ないはずです。インフルエンザも免疫機能が正常に働いていれば1週間程度で治まります。

風邪症候群の中で上気道感染を呈するインフルエンザと普通感冒は同じような症状と緩解をたどるということです。

しかしながら、インフルエンザと診断をされた場合、小児では中耳炎、熱性けいれん、さらに急性脳症を引き起こす場合もあります。高齢者や免疫力の低下している患者では気管支炎・肺炎を伴うなど、重症になることもあるので注意が肝要です。基礎疾患の有無やリスクに関わらず重症度の観点からもインフルエンザ治療薬の適応と使い分けを行う必要があります。

余談ですが、現在使用されているインフルエンザ治療薬にはウイルスの阻害方法に違いがあって、薬剤がウイルスの表面に接合して宿主となる我々の細胞に吸着を阻害するものと、宿主細胞からのウイルスの放出を防ぐものとがあります。

『風邪は万病のもと』

次号ではオステオパシー的な風邪の解釈、ウイルスの侵襲に伴って起こる身体の反応とそれに対するオステオパシーのアプローチについてお話をしたいと思います。


第22回:妊娠と不妊 その4(115号掲載)

今回で4回目の寄稿文で、実に簡単ではあるが不妊について説明してきた。ここで不妊とは避妊などをせずに夫婦生活を普通に営みながら1年間妊娠の兆候が現れないことをいうが、この場合でのオステオパシー的な考察をしてみようと思う。

産科や婦人科特有とは限らず、オステオパシーの特徴的な思考は以下の3つがあげられる。

1.正常妊娠の予定である患者でも固有の力学的・生理学的、生物学的ストレスを持つ。

2.身体には、効果的に作用する自由な状態であれば、妊娠のストレスに対して最適の代償を提供する自己調整メカニズムがある。

3.オステオパシーのケアは、身体ユニット、構造と機能の相互関係、最適な恒常性の混交という信念と臨床観察に基づくものである。

つまり、不妊治療そのものではないけれども、子宮の状態を良くして妊娠をよりしやすくする。例えば、静脈やリンパの還流を促すことにより、骨盤腔つまりは内性器の血流や腹腔への圧力の正常化を図る。当然、関連する腸管の血流も促され、腹部の血流全体が良くなる。これは妊娠に関わるだけでなく、生理前症候群の軽減にも繋がる。

その他、骨盤を整えることで子宮や卵巣の位置関係としての負担を減らす。内臓マニピュレーションにより内臓の過緊張を軽減したり、各臓器の動きに追従することでその働きを促す方法もあげられる。つまり、構造を整えることにより、正しく機能がその働きを充分に行えるようにするのである。このように、身体が本来持っている機能や調整力が構造的な問題により発揮できないのであれば、それができる状態に戻すのがオステオパシー徒手医療(OMT)の担うところとなる。何も特別な事をするのではなく、臓器が働きやすいようにアシストするだけなのだ。

現代の医療においてホルモン療法や体外受精、人工授精など不妊治療を受けている方は数多くおられるが、上記のオステオパシーの考察をもってすれば、医療機関(西洋医学)での治療を外から続けながら、身体の構造や機能が正常に働くようにすることで、治療の効果を最大限に発揮できる環境を整えるのがOMTを含む代替医療の在り方として望ましいと考える。

夫婦生活を営んでいたら、自然と妊娠すると思われる方が多いかと思うが、実際一年以上経っても妊娠しない夫婦も多くいる。オステオパシーへもぜひ視野を広げてもらい、役立てて頂ければ幸いだ。


第21回:妊娠と不妊 その3(114号掲載)

不妊は、女性不妊に多い卵管性不妊と、排卵性障害。男性不妊を合わせて、3大原因としている。今回は男性不妊について話を進める。

男性不妊症の原因

1,性機能障害:射精がうまくいかない場合

勃起不全ED(Erectile Dysfunction):ストレス等、交感神経が亢進することにより、有効な勃起が起こらず性行為そのものが出来ない。本来第2~第4仙髄から起始する副交感神経である仙骨内臓神経が活性化され勃起を呈する。オステオパシーの見地から仙骨や骨盤の体性機能障害(Somatic Dysfunction:SD)がEDを作ることも考えられる。

膣内射精障害:性行為は可能だが膣内射精ができない。治療としてはタイミング指導が挙げられるが心理的な問題があり、固執してはならない。

その他性機能障害が出やすい病気:糖尿病、動脈硬化などは軽症でも勃起障害を呈しやすい。重症では射精障害や逆行性射精(一部の精液が膀胱内に射出) がある。

2,精液性状低下:射精される精液中の精子の数や運動性が悪くなっているもの

軽度~中程度

・本来、精子は精巣(睾丸)で作られ、精巣上体という細い管を通る間に運動能力を獲得し、受精可能な精子となるが、その過程に異常がある。その他、精子の数が減少、精子の運動率低下、精子の奇形率が高くなるなど、受精率低下を招くとされる。

・造精機能障害は精索静脈瘤によるものだが、外科的介入により緩解の可能性あり。

高度

・精液中の精子の数が通常の1/100と極端に少ない

・精子の運動率が20~30%と極端に低下

・低ゴナドトロピン性性腺機能低下症

・視床下部~下垂体で造精機能を司るホルモンの分泌低下停留精巣の手術後

・おたふく風邪による耳下腺炎症精巣炎

3,無精子症:射出された精液中に、全く精子が見られない

・閉塞性無精子症~精巣では精子が作られているのに精子が出てこない

・先天性両側精管欠損症

・精巣上体炎後の炎症性閉塞

・鼠径ヘルニアなど

・精巣内では閉塞がないのに精子が全く造られていない(原因不明)

・染色体の異常など

今回は、男性不妊症の主な原因を挙げた。不妊に苦しむ夫婦にとって非常に繊細な問題である。

(次回その④最終)


第20回:妊娠と不妊 その2 (113号掲載)

不妊についてはその調査した時代や国、その風習が様々で、他の病気のように、はっきりとした集約データが出ているわけではない。2007年に出された世界的な統計では不妊比9%だ。

不妊の3大原因は、排卵因子、卵管因子、男性因子が挙げられる。女性不妊は以下に述べるとして、女性と男性のどちらに原因があるかについての不妊因子は男女ほぼ同等とされている。男性不妊はほとんどが造精機能障害である。

女性側の不妊因子について

1、排卵因子~、月経不順などから排卵障害をきたし、不妊症になる。その他、乳汁分泌のホルモン分泌亢進による高クレアチン血症、男性ホルモンの分泌亢進による多嚢胞性卵巣症候群、環境の変化に伴う大きな精神的ストレス、短期間での大幅なダイエット、等。

2、卵管因子~クラミジア感染症にかかると、卵管閉鎖や癒着が起き、卵子が卵管に取り込まれにくくなる。その他、虫垂炎など骨盤内手術を受けた患者にも同様のケースがみられることがある。また、月経痛に鎮痛剤を常用していると、子宮内膜症を起こし、卵管周囲貧血になり潰瘍が存在し、受精卵の着床が妨害される。

3、子宮因子~月経量過多で貧血と言われている患者は子宮筋腫から粘膜下筋腫を引き起こす場合がある。子宮筋腫は受精卵の着床障害だけでなく、精子が卵子に出会うのを妨げる。子宮内膜ポリープ( アッシャーマン症候群)は月経量が減少し着床に影響するといわれている。また、先天的に変形している子宮奇形もみられるが、これはむしろ、反復する流産の原因とされる。

4.頸管因子~子宮頚部の奇形、手術、炎症などにより、頚管粘液量が減少した結果、精子が子宮内へ貫通しにくくなる。

5、免疫因子~免疫因子の何らかの異常により、女性が抗体を産生し、抗精子抗体を子宮頚管に分泌するため、運動性の良い精子でもその運動を停止してしまう。この抗体は卵管にも分泌され、人工授精で子宮腔の奥まで精子を注入しても卵管で失敗することが多い。また、受精の場面でも精子と卵子が結合するのを妨害するので厄介である。

妊娠と不妊についての中編をお伝えしたが、今後2007年度の不妊比統計データ9%が上がる可能性が極めて高い。真剣にこの問題と向き合い、現状が良くなるよう原因を追究していかねばならない。

(つづく)


第19回:妊娠と不妊 その1(112号掲載)

日本は今、国内外において様々な難問を抱えているが、中でも一つ問題なのが、人口が減少し少子化傾向にあるということだろう。戦時中は「産めよ、増やせよ」と富国強兵の旗のもと、戦地へ赴く兵隊の補充をする必要があるので、妊娠・出産は国の政策と相まって、人口の増加が奨励されたのであろう。終戦後には復員兵が街にあふれ、焦土と化した国土から、他国も驚く高度成長を遂げた。その大きな原動力になったのは『昭和一桁』の方をはじめとするマンパワーである。日本の少子化は日本人のマンパワーを失うことで、この問題も看過できないことだと思うのだが・・・ 。

現在、不妊の定義は「妊娠を希望する健康な男女が避妊をせずに性交をしているにもかかわらず、一定期間妊娠しないもの」(日本産婦人科学会)とされている。一定期間というのは一般的に一年とされているが、子宮内膜症や骨盤腹膜炎によって妊娠しにくくなることが知られており、総合的な判断が必要とされる。一方、妊娠の成立とはどう考えるのか?

1.卵巣から卵子が排卵

2.卵子と精子が卵管内で出会い受精

3.受精卵が卵管内で成長しながら子宮に向かって移動

4.受精卵が子宮に達すると子宮内膜に着床

このうち、その条件が1つでもクリアできないと、妊娠は成立しない。女性が妊娠・分娩を考えるには、パートナーも含め、婚姻、就労等を考える必要性がある。ファミリープランなどを考慮せず、妊娠・分娩に最適な年齢は20歳代、遅くとも30歳代までと考えられる。30歳を超えると自然に妊娠する確率は徐々に低下し、35歳を超えるとその可能性は急激に低下する。また、35歳を過ぎると、流産や胎児異常の割合が増す。45歳を過ぎると体外受精や顕微授精を行っても妊娠の成立は困難を極める。子宮内膜症や子宮筋腫の患者は、そうでない人よりも卵巣機能が低下する年齢が速いので、子どもを望む女性はなるべく早くから妊活したほうがよい。「妊孕能」という言葉があって、妊娠のしやすさを表す言葉であるが、卵子は卵胞内で成熟するので、卵胞の数は卵子の数ということになり、卵胞の数が多いほど妊孕能が高いということになる。卵子は女性が胎児の時に作られ、出生後には作られないことから、後から排卵される卵子ほど時間の経った卵子ということになり、妊孕能が低いものと言えることになります。


第18回:「眠り」後編(111号掲載)

最近、「睡眠負債」という言葉が、テレビ画面を賑わせているようですが、この言葉はスタンフォード大学の研究者により提唱されたもので、『日々の睡眠不足が借金のように積み重なり、心身に悪影響を及ぼすおそれのある状態』ということです。現代人の多くが一日3~5時間の睡眠時間で働いていることに警鐘を鳴らしているのです。彼らによると睡眠の質にもよりますが、一日8時間の睡眠をとるのが望ましいということです。睡眠負債は、将来に認知症になるリスクが高いという報告もあり、今後の研究に注目したいところです。

前編でふれた睡眠時無呼吸症候群(SAS)ですがこれは、睡眠中に呼吸が止まってしまう病気で、その病気の原因は主に二つあるといわれています。

①閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)

②中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSA)

(OSA)は、呼吸する空気の通り道の上気道が物理的に狭くなり、その結果として呼吸が止まってしまうものです。気道の空気の通過するスペースが狭くなるのは、頚部やのど周りの脂肪沈着、扁桃肥大や舌根、口蓋垂、軟口蓋などによる上気道の狭窄が挙げられます。この場合、気道が狭くなって呼吸がしにくくなるため一生懸命呼吸をしようと努力します。

(CSA)は、呼吸中枢の異常による睡眠時無呼吸タイプです。肺や胸郭、呼吸筋、末梢神経には異常がないのに、呼吸指令が出ないことにより無呼吸が生じます。OSAと違い、気道は開存したままなので、呼吸しようという努力がみられません。

これらの治療法としては、減量、生活習慣の改善、CPAP 、口腔内装置、手術治療などがあります。なかでも、CPAPは鼻にマスクをつけて空気を送り込むことにより、空気の圧力で気道が閉じるのを防ぎ、呼吸を確保する器械です。家庭でも簡単に使用でき、効果の高い治療法とされています。

オステオパシーの見地からすると、咽頭・喉頭部の筋を支配する鰓弓性運動神経の機能障害があれば、支配する部位の筋が弛緩して気道を閉塞しているかもしれないと考えます。咽頭・喉頭部の筋の運動神経といえば、迷走神経(CN―X)あるいは舌咽神経(CN ―IX)で、これらの脳神経に頭蓋オステオパシーでアプローチをすると改善が見込めます。また、患者を指導し、弛緩しているぜい肉を減らして症状の改善に努める等、様々な効果をもたらします。


第17回:「眠り」前編(110号掲載)

皆さんは夢をみるでしょうか?夢をみないという人がいますが、それはみた夢を憶えていないだけで、誰でも夢をみているそうです。夢を憶えている人とそうでない人がいるのは、眠りの質に左右されているようで、ストレスや心配事で眠りが浅い人、すっきりとした寝覚めができず、睡眠と覚醒があいまいな場合は夢の記憶を引きずりやすくなります。

海に住む哺乳類のイルカなどは、一生泳ぎ続けて眠ってはいません。渡り鳥などは数千キロを休みなしで飛びます。彼らはいったいどこで、どのように睡眠をとっているのでしょうか?

実はイルカや渡り鳥をはじめ多くの動物は、危険から身を守るため人間のようにゆっくり眠っているわけにはいかないのです。これらの動物は片方ずつ脳を眠らせる『半球睡眠』という独特の睡眠法で睡眠をとっています。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)にかかると十分に眠れないことが原因になって、様々な症状が出てきます。次のような症状が見られるようになると要注意です。

○日中、起きている時しばしば居眠りをする、記憶力や集中力の低下、性格が変化する、など。

○眠っている時いびきをかく、呼吸が止まる、呼吸が乱れている、息苦しくて目が覚める、など。

人間はおよそ1日8時間眠るようにプログラムされているそうです。つまり、私たち人間は人生の約三分の一は眠っているということです。昼間に使って疲れた頭や体をゆっくりと休めてやるのが睡眠の大事な役割です。ここでゆっくりと睡眠がとれずにいると、眠い、疲れたという悲鳴をあげてくることになります。

SASは特に睡眠時に呼吸が止まってしまうので、体が摂取する酸素の量が不足して、様々な臓器に障害をもたらし、生活習慣病を引き起こします。(ex.高血圧、糖尿病、等)また、睡眠時に無呼吸に陥ることで、十分な質の良い睡眠がとれず、昼間に寝不足から、交通事故や事故災害などを引き起こす要因となってしまいます。チェルノブイリ原発事故などは人為的ミスがその原因として挙げられていますが、SASがその1つであるという説もあるほどです。また、もっと身近なところではSASによる眠気や居眠りによって、作業効率や生産効率が低下するだけでなく、機械に体を挟まれて大けがをしたり、死亡事故を引き起こしたりすることもあります。SASが私たちや社会に与える経済的損失は決して、小さなものではありません。


第16回:頭蓋オステオパシーを考える(109号掲載)

最近の手技療法の分野に小顔矯正なるものがあります。高額なお金を支払って身体の不調を改善するならまだしも、顔を小さく見せるために頭蓋に無理な力を加え、その並びを歪めてしまっているのです。オステオパシーの原理は、「身体は一つのユニットである」「身体は自然治癒力、自己管理能力を持つ」「身体の構造と機能は相互に関連する」オステオパシーの合理的な治療は上記3つに基づいているのですが、頭蓋オステオパシー(OCF)もまた頭蓋の構造を正しく整えれば、身体の機能も正しく働き健康も保てるでしょう。しかし、見た目を良くするために頭蓋を歪めれば、身体の機能は崩れ、健康を損なうことになりかねません。

OCFは、1989年当時KCOMの学生だったウィリアム.Gサザーランド, DOが、A.T.スティル,MDの治療している場面を見て、患者の蝶鱗関節がまるで魚のえらのように動くことから、OCFという新しい分野の治療法を考え出したことが知られています。その新しいOCFも、当時すぐに受け入れられたわけではありません。アメリカオステオパシー協会がOCFはオステオパシーの一部であると認めるまで、50年の月日を要しました。例えば、1970年代の解剖学のテキストには、仙腸関節は動かないとされていたそうですが、仙腸関節はいわゆる滑膜関節の一種で、これが動かないとすれば、手技治療家はどうして生計を立てていくのか、考えないといけません。仙腸関節でさえも動かないと信じられていたのに、頭蓋の縫合まで動くなどというと、そう簡単には、受け入れ難い概念でしょうが、縫合は動き、それをもとに治療をするのです。OCFは即効性のある劇的なテクニックというより、自閉症や学習障害など精神的な疾患に対して着実な治療効果を挙げています。

OCFを中心に研究、学会発表、臨床試験、資格などを統括しているのが頭蓋学会(CA)です。私もCA会員ですが、詳細な医学的知識が必要とされるので、会員になるにも、CA認定のセミナーに参加するにも、DO, MD, DDS(歯科医師)にしか認めていません。OCFを学ぶには、ハードルが高い反面、私がKCOMに通っていたころ、16校しかなかったオステオパシー医科大学が現在は30数校を越えるほどに増えています。それはOCF を教える良い教授が足りなくなっているということで、アメリカのOCFの現況も厳しくなっています。


第15回:過敏性腸症候群(IBS)のオステオパシーテクニック(108号掲載)

治療における基本的な目標は、そこに原因が存在すればその病気の原因を除去し、その原因が不明確であれば治療はその症状に対して行う。過敏性腸症候群(IBS)の治療は食餌療法、薬事療法、それに加えてオステオパシー手技療法(OMT)を組み合わせたものになるが、本誌の読者が最も興味のあるのはOMTだろうと思うので、OMTについてのみ話を進めていこう。

IBSは、『機能的な病変状態』と考えられ、内部刺激に過剰刺激を呈し、外因性自律神経の制御接続を通して外部刺激にも大きく影響を受ける。したがって、構造と機能の関連を改善するOMTはIBSの治療にとって効果的である。この機能的疾患の治療過程において食事、薬物療法にOMTを併用するとそれぞれの治療を別々に行うよりも、患者の快適性と臨床状態に大きな差が出る。

オステオパスは、①腸への自律神経の活動の正常化 ②リンパの良好な流れ ③内臓の交感神経の支配領域での体性の関節のSDの正常化を目指して治療に当たる。機能的疾患を持つ患者に対し、患者自身の自己調節機能のサポートを目的とした治療をすることは、解剖学と生理学の理解に基づく実質的な結論となる。IBSは患者の治療の成否は、その疾病経過や機能障害のメカニズムをオステオパスがどれだけ理解しているかにかかっている。

  ○交感神経に対するOMT

  ○リブ・レイジングと胸腰部(T10|L2)の軟部組織テクニック

  ○側腹(椎前)神経節に対する抑制テクニック

  ○チャップマン反射点の治療

  ○副交感神経に対するOMT

  ○仙腸関節のSD(仙骨内臓神経)の治療

  ○OA,AA,C2に対する治療と後頭顆減圧

  ○リンパに対するOMT

  ○胸腰連結に対する軟部組織テクニック

  ○胸郭入り口の治療と腹部横隔膜のドーム化

  ○腹側腹部テクニック

これらのOMTテクニックを用いて、オステオパスはIBS患者を治療しているが、OMT治療の良好な結果は組織の触診で分かり、治療の時だけに限らず、その後も継続するものである。OMTは患者をリラックスさせ、内因性/外因性の自律神経の調整メカニズムを正常化し、うっ滞を軽減することによって、患者に恩恵を浴するものである。


第14回:IBS(過敏性腸症候群)に関して②(107号掲載)

人間が食物を摂取する際、最も中心的な働きをするのは言うまでもなく消化器系である。生きていくうえで重要な生理現象であると同時に糖尿病、胆嚢炎や癌など食生活と深く関わる病気も数多い。口から取り入れられた食物は機械的分解(咀嚼・蠕動運動・分節運動)をされ、消化酵素の働きにより化学的分解が行われる。食物が胃から腸に運ばれる時点での消化物には水分が多く含まれ、約20時間かけゆっくり腸内を通過する間に水分が腸に吸収され、適度な硬さの便となる。水分の吸収は小腸で6~8ℓ、大腸1~2ℓ、糞便中0.1~0.2ℓといわれている。腸に運ばれた糞便は排便時には固形物25%、水分75%の組成となる。しかし、以下のような腸でのイレギュラーな事象として下痢や便秘が起きる。

【下痢】

IBSの場合、腸の運動が過剰になり消化物の通過が速く、腸で水分を十分に吸収できなくなる。食中毒や大腸の炎症により腸粘膜からの分泌が増え水分を吸収しきれなくなる。糖尿病のような全身的な病気により、水分の吸収が低下している。その結果、泥状や液状の便となってしまい下痢になる。

【便秘】

弛緩性便秘のような全身性の病気により、結腸の運動が鈍くなる。大腸癌やポリープなどの原因で腸が狭くなり、排便時は通りにくくなる。IBSや腸閉塞のような痙攣性便秘などが原因で腸腔が狭くなる。習慣性便秘のように、排便を我慢することにより便が直腸に留まる。このような原因で消化物が腸内に長時間とどまった結果、消化物の水分が腸に吸収され過ぎて硬い便ができ便秘になってしまう。

IBSは器質的な変化を伴わず、その特徴は下痢と便秘を繰り返す機能的疾患で、慢性、再発性、断続性、非感染症、そして非病理性の疾患である。

IBSには、痙攣や腸収縮にそのヒントがあるように思うので機能的に通常腸にみられる収縮を挙げる。

推進性収縮―内容物を腸内で移動させる。

逆推進性収縮―内容物を胃の方へ逆移動させる。流体の吸収に時間を与えるため、糞便の前進を遅くするこの収縮は上行結腸と横行結腸に多く見られる。

非推進性収縮―腸の内容物を混合し、1つの結腸膨起から次の膨起へ移動させる。

集団蠕動―通常1日に1~2回起こる収縮で盲腸や上行結腸に滞留した主糞便を圧縮し、早急にS状結腸に送り込む。

胃大腸反射―食後に起こる集団蠕動。過剰または過度でなければ正常。

腸には、外因性と内因性の神経制御システムがあり、神経叢の機能や全身機能への関わりによって患者に与えられたストレスは意識されるか無意識のうちに終わるかが決まる。

またその反応が一時的か持続的かで病理段階へ進むかが決定される。


第13回:IBS(過敏性腸症候群)に関して(106号掲載)

皆さんは過敏性腸症候群(IBS)という病気をご存知だろうか?20~30年前には、あまり診断を下されることがなかった消化器系の病気である。社会生活の多様化に伴い、ストレスに起因するうつ病などの“心の病気”が多発しているが、このIBSもそういった心の病気の一つだといわれている。私がアメリカで研修医をしていたころ、ローテーションで回った胃腸科のクリニックでは、患者の6割がIBSとの診断を受けていた。

 ではIBSとはいったいどんな病気なのだろうか?その病気はストレスなど精神的重圧に起因し、慢性的に下痢と便秘を繰り返す疾患である。その特徴としては、癌や潰瘍のように患部には病理学的変化は見られないという点である。オステオパシーには、その治療の対象となる病変に“体制機能障害(Somatic Dysfunction:SD)”と呼ぶものがあるが、IBSは言ってみれば、消化器系の“機能障害”なのである。SDは体性の、つまり筋骨格系の組織には骨折や腱、靭帯の断裂のような器質的な異常が見られないにもかかわらず、その機能に異常をきたしている状態の事を指す。IBSも下痢と便秘が起きる際に、大腸の働きに異常はあっても、大腸自体の組織に器質的な変化は認められないという点に共通性を見出すことができる。

 IBSによる下痢・便秘が一般的な下痢・便秘と異なる点で特筆すべきは、IBSの主な原因はストレスによる疾患だということ。一部の研究では、患者の精神疾患がしばしばIBSの診断に先行するという報告もあり、この病気の心因性の側面が強調されている。多くの場合、下痢・便秘の症状に腹痛、腹部膨満感、ガス症状、何となくお腹が気持ち悪いというような不定愁訴的な症状を伴う。排便によってその症状が和らぐこともIBSによる下痢・便秘と見極める症状となる。

その他IBS患者の特徴として

・体重が減らない発熱しない

・直腸潰瘍・直腸出血はない

・貧血はない

・大腸がんの前駆とは言えない

10~30代の若い世代に多く見られ、通勤・通学の電車の中で急に便意を催すことが度重なり、学校や職場へ行くことを控えるようになって、不登校や引きこもりとなる場合もある。

一般的に潰瘍性大腸炎、大腸癌、クローン病などの器質的胃腸疾患が診察の際に見つからないと、IBSと安易に診断を下してしまう傾向にあり、実際のIBSより水増しされたIBSの患者が存在しているものと思われる。(続く)

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